DCPで上映してみよう(前編)
以前のブログで、アップリンク渋谷での初監督作品「おだやか家 ODAYAKA-YA」の上映をDCPで行なったことを書きました。あれから何度かDCPを作る機会がありまして、その都度思い出しながらDCPを作っていたので、自分の備忘録的に今回は詳しくその工程を書いてみたいと思います。DCP作成の工程は大きく分けて2つの段階があります。
- DCPデータの作成(前編)
- DCPデータのインジェスト(後編)
前編と後編の2回に分けて書いてみたいと思います。後編は環境によってはそれほど難しくない工程なのですが、Mac環境ではかなり苦労することになりました。後編のほうが大変です。
機材の進歩と低価格化で個人の映像作家でもRAW撮影ができるデジタルシネマカメラでの撮影やDaVinci Resolveでのグレーディングができるようになってきていますが、最終的な納品がWeb映像やBlu-rayのため、カメラのポテンシャルを生かしきれていない状況が多いと思います。
RAWデータで15ストップなどのダイナミックレンジを持つデジタルシネマカメラで撮影してグレーディングした映像を、実際の映画館のスクリーンで上映したいと思ったことはありませんか?
実はDCPデータの作成は少し知識があれば、ほとんどコストをかけることなく作成することが可能です。そしてアップリンクに代表される映画館を個人が借りて作品を上映できるシステムをうまく利用することによって、自分の作品を映画館のスクリーンで上映することはもはや夢ではありません。
DCPとは「Digital Cinema Package」の略で、フィルムに代わる映画作品のフォーマットとして世界各国で普及しています。国際的な標準規格なので、世界各地の映画祭や日本全国の映画館などで上映することが可能になります。つまりDCPを作れば近所のシネコンでも、ハリウッドの劇場に持っていっても上映できるということです。
そして、DCPは従来の35mmフィルムの代替として開発された低圧縮・高画質の業務用規格のデータファイルの形式のため、民生向けディスクの規格であるBlu-rayとはクオリティのレベルが違います。私自身、DCPデータで上映した作品を観た時、自分の作品ですがあまりの美しさに見とれてしまいました。
DCPでの上映を改めて振り返ってみて、デジタルシネマカメラの本来のポテンシャルを引き出せたこと、自分が感動するレベルで綺麗だったことが衝撃で、全国のデジタルシネマカメラを使用して作品を撮っている映像作家さんにも、DCPでの上映を是非お勧めしたいと思います。
ただ、このDCP作成の工程はあくまでも私の環境で、アップリンク渋谷での上映で成功した事例で、すべてのケースに当てはまるものではないと思いますので、その点ご了承いただければと思います。本来は最終的に暗号化してセキュリティをかけたりするのですが、今回使用するフリーソフトではそこまではできません。とはいっても、ちゃんとDCPデータが作れますので上映に問題はありません。
私の場合、Mac環境なので以下のツールを使用しました。
- Final Cut Pro X
- Compressor
- Adobe Audition
- DaVinci Resolve
- OpenDCP
- UNetbootin
- Ubuntu
いきなりハードルが高い感じがするかもしれませんが、実はそうでもなくて、必須のツールは上から4番目のDaVinci Resolve以降ですべて無料で手に入ります。最近はDaVinci Resolveの編集機能がかなり高くなっているので、DCP作成もさらに簡単にできると思います。簡単にどんな作業が必要なのかというと、
- 映像データをJPEG2000で書き出す
- 音声データを単体のWAVとして保存する
- 映像・音声のそれぞれのMXFデータを生成する
- DCPデータを生成する
- ポータブルHDDを[ext3形式]でフォーマットする
- MXFデータをHDDにコピーする
- ポータブルHDDをシアターに持込み、DCPデータをインジェストしてもらう
- テスト上映
- 本番上映
という手順になります。「前編」で手順1〜4を、「後編」で手順5〜9を書きたいと思います。特に私の場合、後編はかなり手こずることになりました。それでは始めてみましょう。
【Chapter 1:編集データを1本のProResに変換する】
普段タイムライン編集にはFinal Cut Pro X(FCPX)を使用しています。FCPX単体でもProResに書出せるのですが、今回はDCI 2K(1.90:1)のアスペクト比のタイムラインで編集し、2K DCI SCOPE(2.39:1)のアスペクト比で書出すのでCompressorを使いました。FCPXで最初から2K DCI SCOPE(2048 x 858)のアスペクト比で作る方法もあります。その場合は直接FCPXからProResを書き出せます。
FCPXの「ファイル」→「Compressorへ送信」をクリック。
Compressoerが起動するので、任意のクオリティを選んでProRes変換します。
今回はProRes 422 HQを選択しました
QuickTime設定の「ガンマ補正」はなしです。
FCPXのタイムラインは2K DCI(2048 x 1080)で編集していたので、Compressorで上下111pxずつクロップして2.39:1(2048 x 858)の2K DCI SCOPEのアスペクト比にします。
【Chapter 2:音声データを単体のWAVファイルで書出す】
Chapter 1で書き出した2K DCI SCOPEのProRes422 HQはDCPを作成する際、映像データしか使わないのでオーディオデータを単体のWAVデータ(リニアPCM、48khz、24bit)として書き出しておく必要があります。
手順としては同様でFCPXの「ファイル」→「Compressorへ送信」をクリックになります。
WAVを選択し、リニアPCM、48khz、24bitの設定で書き出します。
【Chapter 3:ProResをJPEG2000の連番ファイルに書出す】
DaVinci Resolveを起動します。書出されたProResを読み込むと、2048 x 858の解像度になっているのが分かります。
メディアプールに追加してタイムラインを作成した後は「デリバー」タブに移動します。
「ビデオの書き出し」にチェックを入れ
- フォーマット JPEG2000
- コーデック 2K DCI Scope
を選択します。あとはフォルダを指定して書出すだけです。この作業では映像データのみ書き出されます。ちなみに、書出されたJPEG2000のデータを見ると、1コマ1ファイルの連番データになっているのが分かります。
色味がおかしなことになっていますが、これはDCPの色空間がRGBではなくXYZのためです。DCPとして上映する際は問題ありません。
【Chapter 4:音声データをストレッチする】
この工程は必ずしも必要ではないのですが、今回知識不足のために必要になってしまいました。撮影時はいつもの癖で23.976fpsで撮影してしまったのですが、ProResをJPEG2000に書き出した瞬間に1コマが1枚の画像に変換された連番ファイルになるのでフレームレートが強制的に24fpsになります。DCPは24fpsか48fpsしかないので、音声のWAVデータが23.98fpsの状態では映像と音声の尺が合わずDCP作成の段階でエラーになってしまいます。
23.976fpsで撮影したことによるエラーを解決するために、音声データを0.1%だけ早送りさせたWAVファイルを作ります。撮影時に24fpsで撮影していた場合はこの工程は必要ありません。
Adobe Auditionを起動して、書き出したWAVファイルを開きます。
「エフェクト」メニュー → 「タイムとピッチ」 → 「ストレッチとピッチ(プロセス)」
を選択します。
表示された画面の「ストレッチとピッチ」の項目で
「ストレッチピッチシフトをロック(リサンプル)」にチェック
「ストレッチ」に「99.9」と入力(「ピッチシフト」は自動的に計算されるので入力の必要はありません)
「適用」をクリックして処理します。
処理されたWAVを保存します。
「ファイル」メニュー → 「書き出し」 → 「ファイル」
で任意の場所に保存します。(リニアPCM、48khz、24bitになっているか確認してください。)
【Chapter 5:OpenDCPでMXFファイルを生成する】
ここまできてやっとDCPを作成する準備が整いました。DCPの生成はOpenDCPというフリーソフトで行ないます。以下のリンクからダウンロードできます。
OpenDCPのダウンロードとインストールが完了したら起動して、「MXF」のタブを開きます。
Chapter3で生成したJPEG2000の連番ファイルをMXFデータに変換します。
「MXF設定」の「種別」をJPEG2000を選択。
「映像素材」にJPEG2000の連番ファイルが格納されたフォルダを指定。
「出力ファイル」に出力先のフォルダと名前を指定。
分かりやすいようにフォルダにMXFと付けるのをお勧めします。
「MXF生成」ボタンをクリックすると変換が始まります。
次に音声データもMXFに変換します。
映像データと同様の手順で、
「MXF設定」の「種別」でWAVを選択。
今回の音声データはマルチチャンネルのステレオなので、
「Sound Input Type」は「Multi-Channel」にチェック。
「Input File」に書き出したWAVファイルを指定。
「出力ファイル」に出力先のフォルダと名前を指定。
「MXF生成」をクリック。
映像データと同じフォルダが分かりやすいです。
これで映像と音声のMXFデータが完成です。
【Chapter 6:OpenDCPでDCPデータを作成する】
OpenDCPはまだ起動したままにしておいてください。今回字幕は映像に埋め込んでしまっていますので、MXFデータが生成されたら「DCP」タブに進みます。
DCPには命名の規則があるので「タイトルジェネレータ」を使って名前を付けていきます。
- 作品名
- 本編/予告編
- 2D/3D
- 縦横比
- 音声言語
- 解像度
などの項目を一つずつ入力したりプルダウンで選択していくと自動的に名前が生成されます。
命名の規則は「Digital Cinema Naming Convention」で公開されています。英文なので分かりにくいですが、日本語訳PDFもあります。
https://talkie.dcinema.jp/Talkie/talkie_pdf_cpl/namingfile/cpl_naming.pdf
「おだやか家 ODAYAKA-YA」の場合はこんな感じです。
「タイトルジェネレータ」の入力が終わったら「OK」をクリックすると「タイトル」に自動的に名前が生成されています。
次に先ほど作成した映像と音声のそれぞれのMXFファイルを「映像」と「音声」の箇所で指定します。
一番下のオプションは通常は「移動」を選択し「DCP生成」をクリックすると保存先を聞かれますので、「MXF」のフォルダを選択してください。
これでDCPに必要なすべてのデータが出来上がりました。この後はこの「MXFフォルダ」をポータブルHDDに格納して上映する劇場のシステムにインジェストします。その工程は「DCPで上映してみよう(後編)」で書きたいと思います。